加害児童との対面 ~脱学校への道3~
「重い足どり」っていうのは、こういうことかー。
5月2日の朝、そんなふうに感じながら小学校へ向かいました。
校長室に入り、校長先生と少し話をします。
いつもの穏やかな校長先生です。
今回のことを、重大に受け止めてくれていることが伝わってきます。
しばらくして、主犯格のAが担任に連れられてやってきました。
校長先生が、ゆっくり穏やかな口調ながら、いじめをしたことを改めて本人に確認します。
その後、Aは長男に「ごめんなさい」と言いました。
長男は「なぜぼくをいじめたの?」とたずねました。
Aは首をかしげたまま、なかなか答えません。
ついには泣き出してしまいました。
校長先生は、それでも追及をやめません。
あくまで本人の口から語らせようとします。
穏やかな口調はそのままに、しかし、一切手加減はしない。
校長先生の本気と覚悟が見てとれます。
わたしはといえば、いたたまれない気分、ここから逃げ出したい気持ちになっていました。
ここは、長男にとっても、加害児童にとっても絶対に譲ってはいけない場とわかっているのに……。
こうやって書いていても、あんなに強い印象の出来事だったのに、いろいろ忘れていることに驚きます。
書きたくて書いているのに、おっくうに感じる自分がいるのです。
心のなかに「抵抗」が居座っている感じです。
泣き止まないAがやっと口にしたのは、
「いっしょに遊びたかったから」
のひとことでした。
わたしは「そうだったのか……(ホロリ)」という気持ちになっていましたが、夫はそうではありませんでした。
小学校に入学してほどなく、長男が「みんな遊んでくれない」と言っていたのを即座に思い出していたからです。
泣き止まないAに、校長先生が穏やかに諭し続けます。
「この子は別のところで抑圧を受けているのかもしれない」
と感じたわたしは、
「学校もだけど、家とかほかの場所で、嫌な思いをしていない? そうじゃなかったらいいんだけど、『このおばちゃんヘンなこと言うなー』で忘れてくれていいんだけど、もしそうなら、担任の先生とか校長先生とか保健の先生とかに言ってね。あなたのことを助けたいと思ってる人は大勢いるから。なんなら、おばちゃんに言ってくれてもいいよ」
と言いました。
しかも、涙ぐむオマケつきで……。
夫は「あ゛------」と思って聞いていたようです。
わたしものちに、こんなお人好し、いや自分に酔っているようなこと言うんじゃなかったと悔やむことになるのですが。
それでも、脱学校した今でも確信しているのは
「加害側の問題を解決しないと、根本的な解決は困難」
ということです。
そうでないケースももちろんあるでしょうが、なんらかの抑圧や虐待、安心できない環境でたまった膿がいじめとして表出するのではないかと感じています。
実際、現在のいじめ対応最前線は、被害者のケアはもちろんですが、加害者へのケアも重視する方向に進んでいるそうです。
話を戻します。
このあと、C、Dが1人ずつ呼ばれ、同じように謝罪と長男からの問いに答える、ということが続きました。
金魚のフン的にいじめに加担していたCは、
「長男くんに髪の毛を引っぱられたから」が理由。
長男には覚えがありませんでしたが、
「やられたほうがそう言っている以上、謝るべきだよね」
という話をして、長男は納得して謝罪しました。
Dはなかなか言葉が出てきませんでした。
何て言っていいか、わからないのかもしれません。
ここからは推測ですが、「ただ面白かったから」「楽しかったから」だったのかもしれません。
でもそんなこと言ったら怒られるくらいのことはわかるから、言葉を出せない。
しかし不思議だったのが、
「ごめんなさい」と謝ると、相手も長男も、即座に「うん、いいよ」と返すことでした。
おそらく、学校でそのように指導されているのでしょう。
相手を許すことは、まあ、一般的には大切なこととされていますから。
しかし、すごく機械的なところが気になりました。
本当に「うん、いいよ」と思っているならいいのですが、そう思えないときもあるはず。
すごくモヤモヤするやりとりでした。
Bはこの日欠席でした。
そのかわりにと、謝罪の手紙を持ってきたそうです。
国語のノートを切りとったものに、反省と謝罪の言葉をつづってありました。
しかし、裏には父親と思われる大人の字で、
「どうしてこういうことをしたのか」「長男くんはどう感じたか」といったBへの聞き取りのメモが残っていました。
またしても違和感をおぼえました。
「えっと、謝罪の手紙って、こういうメモみたいなのをつけたままよこすものなのかな?」
人にお詫びをするとき、手紙や文書で伝えるときは、内容もさることながら体裁もかなり気を遣うのが一般的でしょう。
そうでないと、謝罪のスタートラインにも立てないからです。
字は極力きれいに、紙もきちんとしたものでシワなどもってのほか、清書する、固有名詞を間違わない……等々、気を遣うポイントはいろいろあります。
子どものすることだから、というのを差し引いたとしても、保護者の聞き取りメモが裏に残っている謝罪文って、どうなんでしょうねぇ……。
なんだか、舞台裏がだらしなく出ているのに「これでいいっスよね!」と開き直られているような不快感をおぼえるのですが……。
いろいろ気になるところはありながらも、
長男が望んだことにはまがりなりにもこたえてもらうことができました。
校長先生も、これで終わりということではなく、二度とこのようなことのないように、引き続き機会をとらえて指導をしていきますと明言しました。
長男はじつに立派でした。
相手の目を見て、「どうしてぼくをいじめたの?」等、はっきり尋ねていました。
いちばんつらい思いをしているのに、いちばん立派だったのはほかならぬ長男という……。
結局のところ、人の心はわかりません。
学校に通わせる以上、保護者が立ち入る限界はあります。
長男だけでなく、どの子にとっても、二度とこのようなことは起きてほしくない。
そう願いつつ、長男と相談しながら登校のタイミングをはかることになりました。
(つづく)